#63(記録)GARAGE(建築家集団)「建築・映像・演劇〜空間と時間を往来しながら」

2023年4月15日(土)
テーマ:「建築・映像・演劇〜空間と時間を往来しながら」
ゲスト: 建築家集団 GARAGE(ガラージュ)
    【小田切駿 氏、瀬尾憲司 氏、渡辺瑞帆 氏】

先月から新たに但馬コネクションの会場となっている「江原_101」。兵庫県立芸術文化
観光専門職大学(略称CAT)の学生のために改築されたシェアハウスです。一見すると築数十
年の普通の民家だが、一歩足を踏み入れると外観からは想像もできない空間が広がる。ど
んな人がどんな思いでこの空間を作ったのか。今回は設計した建築家集団GARAGE(ガラージュ
)の3人をゲストとしてお迎えしました。

 ガラージュは、建築・映像・演劇に関わるアーキテクト・コレクティブ(建築家集団
)。2016年に早稲田大学理工学術院建築学専攻(大学院)を修了し、それぞれキャリアを
積んだ後、2021年に同期3人で設立した。合同会社の拠点はここ江原(豊岡市)に置き、
東京との2拠点で活動しています。

左より 小田切駿氏、瀬尾憲司氏、渡辺瑞帆氏

 設計の中心を担う小田切駿 氏は、金沢21世紀美術館などを手掛けたSANAA(妹島和世&
西沢立衛の建築家ユニット)で経験を積み、現在は早稲田大学建築学科の講師も務める
。SANAA時代に手掛けた日本女子大学図書館、山形県鶴岡市ホールは、建物と環境がどう
影響し合うのか、空気的な連続感を作って建物を一体化していくことを考えた。例えば、
ホールは本来音環境のために完ぺきに閉じたものを作らなければならないが、それを街の
中に唐突に置いてしまうと街にも圧迫感が生まれる。街とつながることで建築が開放され
たり、変化する環境を受け入れていく建築を目指す。

瀬尾憲司 氏は、YKK窓研究所出身で、建築映像作家として活動。建築は写真で見ること
は多いが映像で見ることがあまりないので、映像でどう伝えていくか考えている。2月に
東京で企画した「建築映画館2023」は4日間の映画上映&トーク全て満席で大盛況裡に終
えている。

渡辺瑞帆 氏は日高町江原在住の劇団青年団員。豊岡市の「地域おこし協力隊」として移
住し、江原河畔劇場の立ち上げに参画。富山県利賀村円形野外劇場で『世界の果てか
らこんにちは』を鑑賞し、環境の変化と人の体、言葉が混然一体となって共有される特別
な経験に刺激を受ける。広い視野で物を作る仕事ができればという思いで、自らを舞台美
術のなかでも印象や空間そのものをつくるセノグラファー(Scenographer)と名乗る。豊
岡でも大規模に町とかかわりながら演劇祭などで活動している。

■ガラージュの主なプロジェクト

演劇学生のための芝居小屋シェアハウス「江原_101」
 なぜか「芝居小屋」と名付けられたシェアハウス。但馬コネクションの会場にもなって
いる。設計時には住む学生が決まっていたので、どんな風に住みたいのかワークショップ
的に話し合ったそうだ。どうせなら面白く住み切りたい。自分の部屋は小さくてもよいの
で、共同で住むことをいかに面白くするか、共用部をいかに豊かに作るかという点は共通
していた。みんなで安心して集まれる居間を中心に、水回りはしっかり。それ以外は大胆
にそのままに。最小限快適にする部分とダイナミックな共用部を切り分け、メリハリをつ
けた。前の道路から円山川まで視線が抜けていくことを大事にした。天井を剥がし、吹き
抜けのまま残すことで、勾配屋根に覆われた共有の空間ができた。どこにいても大きな小
屋の中に居るような感覚。それぞれが過ごしたいように居れる街のような空間が生まれた。


ドーモ・キニャーナ」改修 
 1993年に竣工した象設計集団設計の住宅の改修工事。「江原_101」と同様、町と自然の
風景の境界線に建つ家である。竣工時、これからも自分たちで作り替えていくように言い
残されたとのことで、10年ごとに増改築を重ねてきた。30年目にあたる今回は3階部分の
増築である。
 建物全体の考え方を知るため、工事中の図面から構造の模型を作って分析し、どのよう
な空間を作るか話し合って全体の図面を新しく描いた。街にあるものを収集、参照して作
られた家で、川側の曲面屋根は円山川から飛び上がった魚をイメージしている。様々な要
素が混在しているので、それを読み取りながらフィールドワークした。家が大事にしてき
た風景のつながりを大切に。住まれ続けてきた歴史や時間にいかに応答していくか考えな
がら取り組むことが学びになった。円山川への視線、風景の抜けをより強くするため、仕
切られていた壁と部屋を最小限解体して空間を一体化。どこにいても家の大きなコンセプ
トのなかに居るような、空間的なつながりを生み出した。

豊岡ではその他、芸術がどう社会とつながっていくか、実際に街にどういうことができ
るのかという視点で旧商業施設の活用を考える「新しいひろば計画」や、鞄クリエイター
のためのスペース「Apartment」などを手掛けている。

キッチンの飲み物コーナー。

「建築映画館」のプロデュース
「建築映画館」は、建築に関係する映画を上映する映画祭だ。4日間のプログラムはす
べて満席の大盛況。単に上映するだけでなく、建築と映像双方の分野のゲストを呼んで、
映画に登場する建築物の裏話などを語るトークショーも開催する。中心となっている瀬尾
氏は、映画に出てくる建築物の図面を起こす、映画の中の空間を模型として起こす、図面
を観ながら映画を観るなど、一般人には思いもよらない楽しみ方をされる方だ。その道の
方々にはたまらない企画ではないかと想像される。映画で背景として映る建築に目が行く
ようになると、日常生活でも街を見るときに気づきが増えるそうだ。そんなふうに、面白
いと思えるポイントがいろんな人に広がっていくことも狙いだ。

お菓子はすべてスタッフ手作り

「100年かけて劇場をつくるプロジェクト」
 喜界島は、海底のサンゴ礁が隆起してできた島で、地盤全体がサンゴの化石でできてい
る。この島に「劇場」を作るプロジェクトである。「劇場」とは、いわゆる劇場でもあり
ながら、地域の人や研究者が交わって議論して未来のことを考えたりする場所を指してい
る。なにしろ100年かけるのだから、最初の数年はフィールドワークからのスタートだ。
模型を作り、模型に映像を投影してヒアリングしながら、この取り組み、運動を100年続
けるにはどうしたらいいか考えている。

第2部の茶話会風景

先人の建築のみならず、自然や街の営みをリスペクトし、様々なことを網羅して学びな
がら進化を続けるガラージュ。今年の10月20日から30日まで開催される「Under 35
Architects exhibition
35歳以下の若手建築家による建築の展覧会2023
」に出展することも
決まっている。

但馬からもいろんな形で応援していきましょう。

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